カッパドキアへ向けて



砂礫の中に延々と続く、二本のレール。その鉄道に沿った道路を、バスはエンジンを高鳴らせて行く。
目指すカッパドキアは、世界遺産に指定されている大奇岩地帯だ。
イスタンブールからカイセリの空港に着くと、バスに乗り込んだ。すでに20分ほど走っているので、カッパドキアまでは40分ほどで着くだろう。
車窓から見渡す辺りは、黄茶色の大地が広がっている。その背後には、雪を頂いた山々が連なっていた。
沿道のところどころに集落が見られるが、人影はまったく見られない。我々のバスの前後には車も走っておらず、対向車にも合わない。
不意にこちらを向いたガイドのTさんが、窓の外を指差しながら言った。
「キャラバン・サライの跡が見えます。だいぶ崩れています」
見やる、シルクロード時代に使われた日干しレンガ造りの隊商宿は、屋根はおろか、壁の半分以上が崩れ落ちていた。
車窓の風景はしだいに変化していった。砂礫から立ち上がったような巨大な岩が、沿道のいたるところで見られる。
やがてその数も増え、いつしか岩だらけの原野となった。
くねった道路の前方に、キノコが立ち上がったような岩が見えてきた。しだいに大きくなり、岩に近づいたところでバスを停めて降りた。そこは「三人の美女の谷」という、カッパドキアの名所となっている。
近くで見ると、大岩だ。スラリと立ち上がった三本の岩の上には、どれも大皿の石が載っているような形だ。そんな奇妙な形は、どう見ても自然が創り出したとは思えない、不思議な姿である。
さすがに、眺望の良い観光ポイントだ。しばし、辺りを眺めながら写真を撮っていると、どこからともなく物売りの男たちが来た。
左の腕には、たくさんの日本語版の本や絵葉書を抱えており、右手で一冊の本をかざしている。
「百円……百円」と日本語で言いながら、わたしの前に差し出してきた絵葉書は、12枚綴りである。見ると、印刷もまあまあだし、これは安い。
わたしは、ポケットの中の百円玉を取り出した。それよりも、こんなへんぴなところで、日本のコインが使えるとは思っても見なかった。


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