ナイフの町・イエンギザル


カシュガルの町を出てからしばらくすると、田園風景が広がってきた。豊かな木々の緑や畑を眺めていると、砂漠の匂いは感じられない。
土造りの集落や、ときどき擦れ違うトラックを見やりつつ、我々のマイクロバスはシルクロードの「西域南道」を快走して行く。
西域南道は、東西を結ぶシルクロードの三つある幹線の一つで、タクラマカン砂漠の南側に沿って続いている。東側からは、敦煌から砂漠に入り、ローランやミーラン、チェルチェン、ニヤ、それにホータンのオアシスを辿り、北上してヤルカンドからカシュガルに至る路である。今回我々は、この反対側のカシュガルからホータンまでを走破する予定である。
カシュガルから1時間半ほどで、「ナイフの町」で知られたイエンギザルに着いた。まだ午前10時になったばかりであり、店開きをしているナイフ屋は少ないが、見渡すどの店もナイフ屋ばかりだ。日本の燕市や三条市、それにドイツだったら、ゾーリンゲンといったところだろうか。
店に入るとショー・ウィンドーも壁も、所狭しとばかりに、大小さまざまなナイフが並べられている。どのナイフも、赤や青、黒、金色が交じり合った、カラフルでユニークな形の柄や鞘だ。これは、ウイグルナイフの特徴でもある。
驚いたことに、この町の男たち誰もが、腰にはウイグルナイフを着けている。これは、遊牧民族の習慣の名残りであろうが、実に物騒である。
手籠にナイフを並べて、売り歩く男が近寄ってきた。腰のウイグルナイフを、自慢気に抜いて見せる。親の代から使っているというそのナイフは、手を出すのも危ういほど研ぎ澄まされていた。
彼はウイグル語で喋っているので、意味は分からない。しかし、身振り手振りで説明している様子から、「長年研ぎ続けてきたので、刃の部分がこんなに減ってしまった」と言っているようだ。手にしたナイフの刃の部分は、細くて短い。長い鞘とアンバランスのところからも、使い続けてきたことが証明できよう。古の時代から、肌身離さず身に着けてきたウイグルナイフは、遊牧民にとっては魂でもあるに違いない。



物珍し気に、子どもたちや子連れの女性たちが集まってきた。カメラを構えると、和やかな顔をこちらに向けた。幼子を抱いた女性は、その子どもにポーズを取らせている。



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