タクラマカン砂漠の夜明け



砂漠から昇る躍動的な朝日を期待して、車でホテルを出た。
名月に照らされた道路をしばし走ると、倉庫造りの建物の前に出た。ポプラの木々の並んだ、オアシスの最も外れである。ここから先は、茫漠たるタクラマカン砂漠か広かっている。
辺りは、漆黒の闇である。懐中電灯の光を頼りに、砂山を登る。日の出が見易い、小高い丘の頂を目差す。歩き難い流砂に足を取られて、一歩登ると半歩下がってしまう状態だ。しかし、息を切らせてやっとのことで、痩せ尾根の頂部に出た。
辺りはまだ暗いが、しだいに東の空が白み始めてきた。残念ながら上空には、厚い雲が重なり合っているので、すっきりとした朝日は望み薄だろう。しかし、眼前に広がる黒い砂漠が、黄白色に変化していく姿を見るのが楽しみだ。
座っている砂地から、砂漠の冷気がじわじわと伝わってきた。真夏だというのに、寒さで身を強張らせてしまう。聞いていた通りの、砂漠の温度差を感じる。
東雲の空が、薄青色に染まってきた。地平線が黒く、くっきりと浮かび上がってきて、加速をつけて明るくなってくる。朝日に染まって燃えるような、期待していた砂漠ではないが、どこまでも地平線が続く砂漠が広がっていく。
柔らかな日差しは、砂の襞をくっきりと映し出している。黄色がかった白砂。さまぎまな風紋。大きさや形の違った、流砂によって造られた砂丘。それはまるで、大海のうねりのようであり、重畳の山々のようでもある。静まり返って死んだような砂漠も、まるで生き物のように、ダイナミックな姿を見せるのが日の出のころである。
広大な砂漠に、小さな瘤のような緑の点、々とした塊は、ラクダソウやタマリスクの木々である。
遠方の砂漠をじっと見詰めていると、砂丘の切れ目に、一列に並んだ点のようなものが見えた。目を凝らしていると、4〜5、いや十数ヵ所に豆粒ほどのものが動いていた。
望遠レンズをセットした、カメラのファインダー越しに映ったのはラクダの群だった。ちょうど、砂丘を回り込んで行くところだった。
かつて、著名な世界の探検家たちからも恐れられていたのが、「死のタクラマカン砂漠」である。その砂漠の入口でもあるオアシスの町ホータンから、厳しい自然の爪を隠したロマンチックな姿を、わたしは寒さに身を縮めなから眺めていた。



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