砂漠の中のお花畑



1時間ほどの昼食を終えて、バスはブハラに向けて、砂漠の中の道路を走り始めた。
白茶けた地表と青いタマリスクの広がった、草原のようなキジルクム砂漠は、延々と続いていく。そんな単調な風景と、チャイハナでの昼食で、腹の皮が張ったからだろう、うつらうつらとしてきた。
そんなとき、ガイド氏がタイミングよく言った。
「砂漠のお花畑です。黄色い花がたくさん咲いています」
車窓を眺めていて、先ほどよりちらほらと見かけた、菜の花色の大きな花である。
この辺は、かなり多く咲いている。名前は分からないが、春の今ごろ咲く花だとガイド氏は言う。
バスを停めて、砂漠に入る。サソリや蛇がいるというので、草むらを避けて砂地を歩いて行く。
傍に近づくと、鮮やかな黄金色と花の大きいのに、驚かされる。シダのような青い葉が、地面を這うようにこんもりと茂り、株の真ん中から太い花茎が、7〜80センチほどに立ち上がっている。
その頂に、直径1m余りの丸い花がある。数十個の花房が集まって、大きな球形の艶やかな花となっているのだ。一つひとつの花は小さくて、触れると花粉が飛ぶので、あまり手を近づけられない。



近くを散策してみる。タマリスク(ラクダ草)の脇にへばりつくようにした、小さな這性の草がそこここにある。顔を近づけてみると、どの株も青々と茂って花を咲かせている。むろん初めて見るものばかりだ。
小さな白い花や、キンポウゲのような黄色い可愛い花々は、申し合わせたかのように、青空に向かって花びらを広げている。その逞しい生命力に、敬服である。
ブハラに向かって、バスは小穴だらけの砂漠の道を走って行く。ときどき擦れ違う車は、トラックばかりだ。先ほど群れて咲いていた、黄色の巨大花は消え去り、タマリスクばかりになった。砂漠の地で、植生を広げる難しさを感じた。
中央アジアの中央部は、キジルクムとカラクムの二つの広大な砂漠がある。今ごろは過ごし易い時節で、ちょうど良い気温だが、夏の日中には60度近くまで上がるという。
「黒い砂」との意のカラクム砂漠は、トルクメニスタンの中央部にあり、国土の70%を占めている。
「赤い砂」との意のキジルクム砂漠は、シルダリヤ川とアムダリヤ川に挟まれた部分にある。カザフスタン南西部から、ウズベキスタンの大部分を占めている砂漠である。砂礫を含む粘土質の荒地だというので、保水力のある粘土が、砂漠の植物に生命力を与えているのかもしれない。



中央アジア全体を見てみると、ユーラシア中央部のほとんどの地が、ステップと呼ばれる乾燥草原と、砂漠地帯である。
ステップは、比較的高緯度の地域に広がり、ウズベキスタンよりも北にある、カザフスタンの中部から、北部にかけての広大な地域を占めている。春には一面に丈の低い草が芽吹き、冬には枯れ草となる。この一帯が、家畜を追って暮らす、遊牧民の生活の場である。
また、中央アジア東部の「草地」も、遊牧民の放牧地にもなっている。雪解け水や降水量も比較的多い山の近くなので、林も見られる。このような好条件の地には、早くから人々が住み着いて、農耕や遊牧生活を営んでいたのだ。
車窓から眺める辺りは砂礫部分が少なくなり、緑が多くなってきた。いじけたように地を追っていたクマリスクも、丈が伸び上がっている。そろそろ砂漠の終りが、見え始めてきたのかもしれない。



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