キャラバン・サライの跡



目覚めると、どことなく空腹感が漂っていて、落ち着かない。「昨夜はだいぶ食べたのだが」と思いつつ、ホテルの朝食時間を待ち兼ねていた。
7時の朝食時間に合わせるように、レストランへ行くと、すでに欧米人のグループで混んでいた。
クロワッサン二つと目玉焼き、ベーコン、ウィンナ・ソーセージなど、たっぷりと食べた。
紅茶もお代わりする。若いボーイは、「ハイ」 と日本語で応えて、笑顔ですぐに持ってきた。わたしがよっぽど空腹顔に見えたのか、それともサービスのつもりか? ポットの皿に溢れるほどなみなみと持ってきて、テーブルに置いた。わたしは頬を緩めつつ、ウズベキ語で言った。
「ラフマット(ありがとう)」
するとボーイ君はニコニコしながら、わたしを見詰めながら、日本語で言った。
「ありがとう」

午前9時に、バスはホテルを発った。目差すは、サマルカンド。5時間余りかかるだろうから、着くのは午後2時ごろだろう。途中、昔のキャラバン・サライ跡に、立ち寄る予定である。
町を出ると沿道には、田園風景が広がってきた。家族総出なのだろう、5〜6人で鍬を振って畑を耕している光景が、集落の近くで見られる。子どもたちも手伝っている。
耕す前の荒地のような田畑と、青々とした麦畑とが、交錯するように続いている。
一時間半ほど走ったころ、「ラバット・マリック」と呼ばれる、キャラバン・サライ跡に着いた。
お椀を伏せたような形の貯水所が、道路沿いの畑の中に、ぽつんと佇んでいる。道路の反対側には、隊商宿の跡がある。しかし、ゲートの一部を残して、ほとんど崩れ落ちていた。
雨水を集めて、建物の中に溜める貯水方式。むろんこれは、水の蒸発を防ぐためで、乾燥地帯でよく使われているやり方だ。
レンガ造りの丸い建物は、近年修復されたようで、整った形である。三方の下部には明り取りの窓があり、西側に地下へと下りる入口がある。メドレセのゲートのような、四角い立派な入口から中に入ると、地下には満々と水が湛えられていた。正面の窓から差し込む朝日は、水面を明るく照らしていた。
建物を囲む辺りの荒地には、赤いケシの花が咲き競っていて、華やかだ。



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