ティムール色豊かな霊廟群



昼食後、レストランを出たのは、午後二時半になろうとしているところだった。次の目的地は、ここから1.5キロほど離れた、「シャーヒズィンダ廟群」だ。廟群は、アフラシャブの丘の南麓にある、サマルカンド随一の聖地である。
ティムールゆかりの人々の霊廟が、ほぼ一直線に建ち並んでいる。「死者の通り」といわれ、巡礼者がいつも絶えないという。
「シャーヒズィンダ」とは、「生ける王」との意で、七世紀のアラブの侵略時に生まれた伝説がもとになっている ティムールの部下の一人だったという、アミールゾダ廟を眺めつつ、階段を下りる。この石段は、その数が、行きも帰りも段数が同じだったら、天国へ行けるという。むろん、同じで当然であるが、もしも数え間違えていたら、天国ではなく、「地獄行き」なのか? それは嫌だから、数えなければいいのだ。しかし、そういわれると数えたくなるのが、人間の心理である。
「いち・にい・さん……」「ワン・ツウ・スリー」「アン・ドゥ・トワ……」
日本語、英語、フランス語などが賑やかに飛び交い、石段を上り下りしている。国際色豊かな石段だ。



メイン・ストリートの狭い道の両側には、廟が建ち並ぶ。しかし残念なことに、廟は修復中であり、建物のそこここに、鉄パイプが組まれている。
それにしても、どのドームも、青色がひときわ輝いている。まさに、空色のトルコ石や、深い青色のラピス・ラズリのような、宝石の煌めきである。
そんな、ティムール色をふんだんに使ったドームを眺めていると、不意に言葉がこぼれてきた。
「競い合う モスクの青と 空の色」と、句とは言えない口任せの言葉である。
そんな余裕も束の間で、強い陽射しを受けての石段上りで汗が滲み、息も切れ、数える石段の数も曖昧になってきた。
廟は、未完成なものを含めて11以上あり、ティムールのお気に入りの妻や、妹、乳母、さらに、彼の部下などが祀られている。
この廟は、誰のものなのか不明だというが、八つの壁面をもった「八角形の廟」は、ユニークな形だ。ここの廟群で最も美しいといわれている、「シャーディムルク・アカ廟」は、ティムールが愛した姪を祀っている。



モンゴル来襲の際にも破壊されずに残り、サマルカンドで最も古い建造物になっているのが、「クサム・イブン・アッバース廟」だ。この廟に三回詣でると、「メッカに詣でたのと同じことになる」と信じられていたので、「楽園のドア」と呼ばれている廟だ。
色鮮やかな七宝タイルと、植物文様やアラビア語文様で飾られた墓石。それは、宝石箱のような4段重ねの墓石である。
さまざまな廟の群は、まさに、廟建築の博物館のような様である。



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