鳥葬の岩山「沈黙の塔」



車窓から眺める、黄色に染まった荒涼とした風景。その前方に小高い山が見え始め、バスは吸い寄せられるように近づいて行った。
荒々しい山肌を露出した小山は二つあり、どちらも頂には、石と土で塗り固めた塔が立っていた。
ここが、鳥葬が行われた「沈黙の塔」である。それは、「ゾロアスター教徒の墓場」との意で、現地では「ダフメ」と呼ばれているそうだ。
ゲート前にバスが停まると、事務所から中年男性が出てきて、扉の鍵を開けた。
草一つ生えていない、砂礫の大地。その辺り一帯に、日干しレンガや土で固めた小さな建物が点々と建っている。通夜などに使われたという、集会所などの廃墟だという。その奥には、現在ゾロアスター教徒の土葬に使われているという、墓地がある。



そんな土造りの小屋に交じって、先ほどバスの車窓から見た氷室や、風取り塔を備えたアーブ・アンバール(貯水池)が見られる。ここの地下には、カナートが通っているのだ。
寂寥たる、広大な黄土色の大地。その前方の二つの小高い丘には、それぞれの沈黙の塔が建っている。
どちらの高さとも50メートル余りで、その上に、横幅が10メートルほどの塔が建っている。塔は、石を積み上げた上から、土でぶ厚く塗り固められていた。
塔は、方形と円形の二つである。男性が方形で、女性が円形の塔に葬られたといわれている。しかしガイド氏は、それを否定している。男性と女性の区別はなく、一緒に葬られたと強調していた。
今ではこの二つしかないが、旧時はこのような塔がたくさんあったそうだ。テヘラン大学を優秀な成績で卒業したという、ガイドのムサさんの言葉を信じよう。
塔に向かって、丘を回りこむように登る。まったく日陰のない、滑り易い急斜な小道だ。強い日差しは容赦なく、照り付けてくる。



石と土で囲み込んだ頂部は、思ったよりも広い。その中心に、大きな穴が掘ってある。そこに、集めた骨を入れた穴だという。
全裸にした死体は、メッカの方角の西に、頭を向けて壁側に安置するそうだ。すると鳥たちが、その肉を啄ばむのだ。月日が経って骨だけになったところで、中央に掘られた穴に骨を入れるという。
実際には、ゾロアスター教には鳥葬の風習は無く、風葬だったそうだ。
そんなゾロアスター教徒の鳥葬・風葬は、1930年に禁止された。イスラム教徒と同様に、現在では土葬になったという。



ゾロアスター教徒が、鳥葬を行っていた理由。それは、火・水・土を神聖なものとしていたので、それらを汚すことになる、火葬や土葬を嫌ったためといわれている。そのために遺体を鳥が喰い尽くして、自然に還す方法を取ったという。
「沈黙の塔」との名の由来。それは、ここに来た人々が悲しみのあまり、無言で帰って行くことから名付けられたそうだ。
見渡す辺りは、まったく緑がなく殺伐としている。そんな情景を見ているだけでも、口数は少なくなってしまう。さらには、肉親の死に接していれは、沈黙してしまうのは当然であろう。



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