日本の約四・五倍もある、広いイランのほぼ中央に位置するヤズド。「沈黙の塔」を下ってから、町へ戻った。
立ち並ぶ住宅の道を歩いて行くが、さすがに砂漠都市だ。特有の乾いた熱風と、肌を刺すような強烈な日差し。わたしは目を細くして、黄土色の家々の続く小路を行く。ガイドのムサさんが、民家に案内をしてくれるそうだ。楽しみだ。
しばらく行くと、ムサさんは一軒の家の前で止まった。高い土塀のわりには、入口は小さい。
彼は木製のドアを、何度か叩いた。
しばらくして出てきたのは、四十歳前後の女性だった。快く我々を中に通して、見学をさせてくれた。
思ったよりも広い中庭で、青々とした木々も茂り、まさにオアシスである。家も広く、この辺では、かなり裕福な家庭のようだ。
倉庫になった部屋があり、ダンボール箱やら、不用とおぼしき家具などが置かれてあった。いわゆる納戸であろう、風通しの良いその部屋の中央には、ピスタチオが三つの大皿に入れて乾してあった。
中庭を囲んだ部屋数の多い家は、一般に数家族が一緒に住むことが多いという。しかしこの家は一家族で住んでいるという。それに、地下室もあるそうだ。昼間の暑いときは、涼しい地下室で過ごすという。
ムサさんは、ニャリとしながら言った。
「裕福な家では、このような地下室を備えています。砂漠地方の建て方です」
中庭のオアシスで、ゆっくりと休憩をさせてもらったおかげで、英気を養うことができた。
「この辺は、フランス語の方が通じます」とのムサさんの言葉を、ふと思い出した。わたしは帰りしな、見送ってくれた奥さんに向かって言った。
「メルシー・ボークゥー(ありがとうございます)」
彼女はにっこりと、会釈を返してきた。