王家の財宝が輝く宝石博物館



「ガラス博物館」から、直線距離にして500メートルほど行くと、「宝石博物館」だ。「イラン・メッリー銀行」の地下金庫が博物館になっているだけに、警備態勢は厳重である。
入口でのボディ・チェックは、空港の入国検査以上に厳しい。館内には、女性のバッグも持ち込めない。
ここに展示されている宝石類は、革命前に王家が所有していたものだ。その絢爛豪華なさまざまな品々に、目を見張ってしまう。
入った正面には、ひときわ輝いているのが、『パフラヴィー・クラウン』だ。サーサーン朝風にデザインされているというこの王冠は、初代パフラヴィー王の即位のために用意されたという。
1736年にインド遠征をした、ナーデル・シャーが戦利品として持ち帰った『孔雀の座』も素晴らしい。その椅子には、26000個の宝石がちりばめられている。
宝石の数が最も多いのは『宝石の地球儀』で、51366個もの宝石が埋め込まれているのだ。日本の位置は小さくて分かり難いが、イランに当たる部分にはダイヤモンドが輝いている。この地球儀に用いられた純金は34キロで、宝石類の総重量は3656グラムという。



唖然としてそんな地球儀を眺めていると、突然ベルの音が響き渡った。見学者の誰かが、どこかの展示品のガラス・ケースに触れたのだ。すると、周囲にいた制服姿の警備員たちが、足早に近寄って行った。ケースに触れただけでも、警報が鳴る仕組みになっているのである。
たしが見学している間にも、何度かベルが鳴った。その度に、驚いて辺りを見回してしまう。見学者は、宝石に目が無いであろう女性が、圧倒的に多い。きっと、夢中になって宝石に近づき過ぎて、無意識にケースにタッチしてしまうのだろう。
ここには、世界最大のピンク・ダイヤがある。
『光の海』との名で知られた、182カラットのダイヤモンドだ。これも、ムガル皇帝からの戦利品という。
豪華絢爛たる館内の宝石の数々を眺めていると、思わず溜息が出てくる。「男でもそう思うのだから、女性だったらもっと大きな溜息をつくだろう」と思っていると、傍にいた中年女性のMさんが、わたしの耳元で言った。
「私の持っているのは、みんな屑ね……もう買いたくない!」



それにしても、これだけの素晴らしい数々だが、アレキサンダー大王によってかなりの数がヨーロッパに運ばれてしまったのだ。それを思うと、今のイラン人は地団太踏んでも治まらないほど、やるせない気持ちになってしまうだろう。
「イランで採れる宝石は、パールとトルコ石しかありません」と言っていた、ガイドのムサさんの言葉をふと思い出した。そんな宝石の少ない国なのに、このような世界で最も高価なコレクションの数々がイランに集まっている。ペルシア帝国の偉大さを、改めて知らされる思いだった。




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