昼食は洞窟レストラン



昼食は、近くにある洞窟レストラン「SARIKAYA」へ入った。かつての石窟の空間を生かした、レストランだ。
岩肌に囲まれた入口かあら、窟内に入って驚いた。荒々しい岩肌とは裏腹に、華麗な内装である。
ペチカのあるゆったりとした部屋は、アット・ホームな雰囲気だ。ワインが飾られた通路をしばらく歩くと、広いホールに出た。
中央では中年男性が、椅子に座り、膝のうえに楽器を載せて演奏している。それは、オーストリアや南ドイツに伝わる、チターのようで、そのリズミカルな音が響き渡っていた。
ホールを中心に、雛壇状の席が五列に並んでいる。わたしは二列目の中段に席をとった。
先ずは、定番のレンズ豆のスープがきてから、前菜、ケバブなどが次々と運ばれてきた。赤ワインと、実にしっくりと合っている。
気になっていた、チターに似た楽器。ボーイが来た折に聞いてみた。長身の彼は、にこやかにはっきりと、「カヌン」と何度も言った。初めて見て、初めて音を聞いた楽器だが、このホールに実に良く響き渡っている。我々日本人に気配りをする奏者は、お馴染みの日本の曲を、何曲か演奏してくれた。



巨大な岩窟と地下都市を見渡すと、ごつごつとした岩山群の谷間や、岩間のそこここに雪が残っている。
そんな情景を眺めていると、ガイドのTさんは言った。
「今年は暖冬で雪が少ないです。今年の作物に影響しそうです」
ふだんでも乾燥しているという、カッパドキアのこの大地。夏の水不足は作物ならず、自然環境に大きな変化を及ぼすに違いない。
我々の飛行機が、このカイセリ空港に降りられたのも、幸運だったのだ。例年、冬は雪のために着陸できず、アンカラの空港まで行かないと降りられないという。これは、雪が少なかった恩恵でもある。
遠望する岩峰は、「尖った砦」との意のウチヒサルだ。巨大な一枚岩の城塞を中心として、村を形成している地域である。
岩峰を取り囲むようにして、白壁の家々が並んでいる。上部の岩の表面には、多数の穴が開いている。これは鳩の巣で、住民たちはこの糞を集めて、ブドウ畑の肥料にしているそうだ。それは昔からの生活の知恵で、巣の入口には、鳩が好む赤いペンキが塗られているのだ。



セルヴェの谷への途上、3本のキノコが生えているような形をした、大きな岩が見える。パジャバー地区のこの岩には、かつて修道士が住んでいたという。
カッパドキア地方はヒッタイト時代から、交易ルートの要衝として栄えた地だ。キリスト教の修道士が、凝灰岩に洞窟を掘って住み始めたのは、4世紀前後だそうだ。
彼らは外敵から身を守りつつ、窟内で信仰を続けていたのだ。先ほどギョレメでも見たが、洞窟内の壁や天井に描かれた、キリスト教に関するフレスコ画は膨大であり、信仰心の深さが垣間見られる。
それにしても、標高1000メートルを超す、奥深い岩山でのひたむきな信仰生活は、さぞや厳しかったのに違いない。
遠望する山々の岩肌には、青や赤色の部分が見られる。これは、鉄や銅が混じっているので、土の色が変化しているという。
30年前まで、多くの人々が生活していたセルヴェの谷。そこに住んでいた村人たちは、岩の崩壊の危険を逃れて、近くの林の方へ移り住んだそうだ。現在、多数の住居や聖堂が、そのまま残っていて、初期の壁画も残っている。峡谷の壁面には、洞窟や山々を結ぶ、細いトンネルが巡らされていた。
アブジザールの谷から、しばらくバスで移動してカイマクルに出る。



ここは迷路のように張り巡らされて、蟻の巣のように延びた岩窟住居、いや地下都市だ。その発祥や歴史は謎が多いが、アラブ人から逃れた、キリスト教徒が住んでいたといわれている。
小さな入口から、窟内に入る。狭い通路の両側には、小さな部屋がある。剥き出しの岩肌が、生活の厳しさを物語っている。その狭さは、物など置けるスペースすら、ないであろうと思われるほどだ。奥へ行くほど細くなってくる通路は、しばしば頭や体を打ってしまう。
わたしは、かつてベトナムのクチトンネルに入ったことを、思い浮かべていた。ベトコンの掘ったトンネルよりも、ここはやや広い。地下八階まで掘り下げられていて、その規模には驚かされる。現在見学できるのは、地下5階までだ。壁面に電灯が取り付いているので歩き易い。
トンネルの両側にある部屋は、どれも同じように見えるが、往時は住居のほかに、礼拝堂や学校があったそうだ。それは、大規模な共同生活が営まれていた証でもあり、ここに二万人が暮らしていたと聞いて、頷ける。
各階に通じる、通気孔が造られており、ところどころに丸い石が置かれていた。道を塞ぐように置かれたその大石は、外敵の侵入に備えて準備されたものという。
地下4階まで下りてから、再び地上に出た。辺りには土産屋が軒を連ね、店頭では、若者たちが手招きをしつつ呼び込んでいる。




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