トロイ戦争の「木馬作戦」


ロビーの暗い部屋で、城塞の模型を眺めつつ、トロイ戦争を思い浮かべていた。古代ギリシアの詩人ホメロスの英雄叙事詩、「イリアス」に登場してくる、「トロイの木馬」である。
その内容は、トロイの王子パリスがスパルタ王メネラオスの妃である、美女ヘレネを奪い去ってしまう。つまり、美女の不倫から端を発した戦争である。


トロイ戦争は、紀元前1200年ごろに、10年間続いたギリシア軍とトロイ軍との戦いだ。ギリシア軍はトロイの城壁を包囲したが、トロイ軍は粘り強く応戦したのだった。
そんなある日、冷静沈着な英雄オデュッセウスによって、奇想天外な「木馬作戦」が展開された。ギリシア軍は、巨大な木馬を城壁の外に置き去りにして、船へと撤退を始めたのだった。トロイ軍は、ギリシア軍が攻略を諦めたので、戦が終わったものと判断した。喜び勇みながら、木馬を城内に引き入れた。
それは、勝利を祝って宴をあげているときだった。木馬の中から、30人余りの兵士が飛び出してきて、トロイの町に火を放ったのだ。


これを合図として、ギリシア軍は船から引き返して来た。城内になだれ込み、難攻不落を誇ったトロイは、攻め落とされてしまった。ギリシア軍の見せ掛けの撤退に、まんまと嵌ってしまったトロイ軍だった。
王妃ヘレナは、メネラオスのもとに戻ることにより、トロイの十年戦争が終止符を打ったという、結末である。
雨は相変わらず降っている。ロビーを出て、駐車場へ行く。柵の隅には一匹の犬がいて、こちらをじっと見詰めていた。ガイドのTさんと近寄って行くが、犬はそ知らぬ顔をしている。鼻から口にかけては黒いが、白い毛並みのがっしりとした大型犬だ。Tさんは指差しつつ言った。


「トルコの強い犬で、狼と闘っても負けません。見てください耳を!」
見やる両耳は、切ってしまったかのように短い。これは、狼と闘っても食い千切られないように、この種の犬はどれも耳が短いという。つまり、闘犬として進化した姿なのだ。
だいぶ雨に濡れたので、体が冷えてきた。そそくさと暖房の利いたバスに戻り、ほっとひと息ついた。チャナッカレのホテルまでは30分ほどなので、午後5時過ぎには着くだろう。
チャナッカレはトロイ観光の起点となっており、小さな町だが、ホテルやレストランが多い。この地は、アジアとヨーロッパを隔てるダーダネルス海峡の中心的都市で、軍事的にも要衝となっている。このため沿岸の各都市には、かつて築かれた要塞が残っている。




ホーム

inserted by FC2 system inserted by FC2 system