海峡を渡ってヨーロッパへ


 チャナッカレからのフェリーが、午前7時半と早い。このため忙しく朝食を済ませ、7時前にはホテルを出た。フェリー港までは、30分ほどだ。
桟橋に船尾を着けた船に、バスとともに乗り込む。すでに、数台の大型トラックが乗船していた。
上部の船室は、混み合っていた。通学の若者たちで、そのほとんどは高校生だった。海峡を渡って、対岸の学校へ行くそうだ。彼らは席を詰めてくれ、われわれはソファーに座った。そこは男のグループだったが、離れた場所には、女生徒のグループもいた。


テーブルの上には、教科書やノートが無造作に積んである。皆カバンは持たないで、通学しているようだ。
わたしの前にあった英語の教科書を、勝手に捲ってみた。どのページにも、たくさんの書き込みがあり、漫画などの悪戯書きがなかった。教科書の下のノートを見てみると、各ページともに、整った字でぎっしりと書いてあった。この持ち主は、勉強家のようだ。


生徒たちは明るく、グループそれぞれに、楽しげな笑いが絶えない。これから学校へ行くとは、とても思えない賑やかさだ。
わたしは両隣に座っている高校生と、話しをしたり、写真を撮ったりしていた。彼らは和やかにほほ笑んでいるが、英語が苦手なようで言葉少なげだ。
良く喋る朗らかな一人の生徒は、仲間たちの人気者のようだ。次々と、生徒を紹介してくれる。アジア系の顔をした、中背の仲間がいた。朗らか君は、彼の腕を引っ張りながら、「モンゴル」などと紹介しつつ、皆で笑い合っていた。


わたしは、日本語や日本人の挨拶の仕方を教える。すると朗らか君は、真似をしていた。そんな男前で人気者の彼は、どこかで見た顔に似ていた。しばし思い巡らしていて思い当たったのが、シャンソン歌手のジルベール・ベコーだ。むろん年の差はだいぶあるが、来日したとき傍で見た顔立ちにそっくりだ。それに、仕草も似ている。



彼らとの楽しい交流を楽しんでいると、40分はあっという間に過ぎていった。前方には、対岸のエジェアバトの町並みが見えてきた。
甲板に出ると、冷たい風と小雨が降っており、思わず身を縮めた。朗らかな彼らと、握手を交わしてからバスに乗り込み、下船した。




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