栄華を伝えるトプカプ宮殿



金角湾や、マルマラ海とボスポラス海峡を望む、小高い丘の上に建つトプカプ宮殿。三方の海を見晴らすこの宮殿は、オスマン朝の支配者の居城として400年もの間、強大な権力と栄華を誇っていたのだ。
この地が、当時の東西交易の要衝として、重要な位置に建てられていたかは、宮殿から眺めると一目瞭然だ。地の利を活かした、堅固な要塞である。
メフメット二世によって、1460年に着工された宮殿には、大砲が設置されていたという。それにより、トプカプ宮殿と呼ばれるようになったそうだ。「トプ」とは「大砲」で、「カプ」とは「門」の意である。
1856年に、ボスポラス海峡側にあるドルマバフチェ宮殿ができるまでは、トプカプ宮殿はオスマン朝の政治・文化の中心地だった。その支配範囲は、ウィーン付近から黒海、アラビア半島、さらに北アフリカにまで及んでいだ。

宮殿には、スルタンの居室をはじめ、謁見の間やハレム、現在陶磁器のコレクションが置かれている、かつての厨房などが整然としている。そんな壮麗な宮殿は、現在、博物館として往時の様子を偲ばせている。
アヤソフィアの裏側にある、「皇帝の門」を入ると、第1庭園に出る。前方には「送迎門」が、左右に8角の塔を従えて、どっしりと構えていた。
送迎門をくぐると広い第2庭園で、左側はハレム、右側は厨房になっている。ハレムは、トプカプ宮殿の見どころの一つとなっている。そのハレムとの名は、「ハラム(聖域)」や、「ハリム(禁じられた)」とのアラビア語を語源としているそうだ。
入口から入ったそこは、ハレムの警備に当っているの部屋だ。宦官を纏めている宦官長は、スルタン好みの女性を買ってきたりもしたようだ。しかし彼らは、ハレムの女性たちとは顔を会わせたことがないそうだ。食事も二重ドア越しから運ばれ、もう片方のドアから取り出していたという。
宮殿の部屋は、スルタンの母、一番目から4番目の妻、さらに大勢で住む部屋に区割りされていたそうだ。4人の妻たちは、自身の住まいと召使を持っていたという。


ハレムの前には、四角柱の建物がある。これは「正義の塔」と呼ばれ、市街を監視するための塔である。
第2庭園の右側は、かつてのスルタンの調理場だ。厨房だった16世紀末には、1200人もの調理人がいたといわれている。現在は陶磁器の展示館で、中国や日本の陶磁器など、一万点以上所蔵されている。むろん現在の展示品は、その一部である。色鮮やかな徳利や、アラビア語が模様として描かれた大皿など、珍しい陶器類がガラス・ケースに納まっていた。
中国の陶磁器は、宋・明代のものが主で、白磁や青磁、染付、色絵などと幅広い。
一方、日本のコレクションは18世紀〜19世紀で、中国のものよりもやや新しい、伊万里焼が中心に展示されていた。
陶磁器の多くは、スルタンが世界中から買い集めた他に、シルクロードから運ばれたものや、エジプトから持ってきたものという。
第2庭園から「幸福の門」に入ると、目の前が謁見の間だ。初めのころは、スルタンと高官や将軍などが週に4日ほど集まっていたという。しかしスルタンが出席したのは、初期のころだけだったそうだ。だいたいが、「王の眼」と呼ばれた小窓から覗くだけだったという。
第3庭園の南側が、宝物館だ。
イスタンブールは、オスマン朝時代になってからは、一度も侵略を受けていない。このために膨大な秘宝が、略奪されることなく残っている。


展示されているのは、4つの部屋である。テーマごとに分かれていて、190点に絞って陳列してある。
見逃せないのは、第四の部屋だ。ここには、映画『トプカピ』に登場した、短剣がある。盗賊が「トプカプの短剣」を盗み出すという、映画のストーリーである。
第4の部屋はさほど混んでいなかったが、やはり短剣には人気があり、そこだけに人垣ができていた。だいぶ昔の映画だが、スリリングな展開を思い浮かべつつ、じっくりと短剣を見ることができた。鞘にはたくさんの宝石が埋め込まれ、柄の部分には、3つの大きなエメラルドと時計が付いている。全体が金で飾られた、華麗な短剣である。
イスラム世界では、大切な宝石がエメラルドで、スルタンは競って集めたという。深いグリーンで、重さ3キロという世界最大のエメラルドがここにはある。


「スプーン屋のダイヤモンド」と、変った名のダイヤモンドは、86カラットもあるダイヤである。世界有数の大きなダイヤモンドの台座には、49個のダイヤが取り囲んでいる。その変った名は、数々の伝説が伝わっているが、思いのほか単純だ。をれは、漁師がダイヤの原石を拾い、市場で3本のスプーンと交換したところから命名されたそうだ。そのものズバリの名である。
第3庭園を抜けた宮殿の奥に、内部のイズニック・タイルの見事な、バーダーット・キョシュキュがある。テラスにある金色屋根の建物はイフタリエで、ラマダーン月に1日の断食を終えて、夕刻の食事をする所という。
そこからは金角湾や新市街が一望でき、実に素晴らしいビュー・ポイントである。しかし今日は、どんよりとした鉛色の空と海だ。晴れていれば、きっと紺碧の海の絶景が見渡せただろうと思うと、残念だ。




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