ゴビ灘の中のカシュガルダム


イエンギザルから出てほどなくすると、町並みが途絶えた。荒野の所々に、土造りの人家が建っているが、人の気配は感じられない。辺りは、砂と石ころ交じりのゴビ灘と、畑とが交錯している。水気のまったくない畑には、いじけた姿の野菜が砂だらけになっていた。こんな痩せ地で、作物ができるのだろうかと案じてしまう。
そんな、荒涼とした車窓の風景を眺めていると、急に道路の両側に緑が広がってきた。豊かに茂った木々の間から、満々と水を湛えた湖が現れたのだ。信じられない気持ちで眺めていると、傍にいたガイド氏は言った。
「ここは『カシュガルダム』です。1週間前に来たときは、カラカラでした」
それにしても、一週間で広大な湖を造るとは……。それは、ずぐに干上がってしまうことをも意味している。
湖の側に近寄って見るが、浅くて、我々が考えているダムとはいえない。それは、実に巨大な水溜りのようである。しかし、砂漠の民にとっては、貴重な水源であり、緑豊かなオアシスの地に違いない。
ダムの周囲には、ミモザに似た木々やポプラが、力強く根を張り出していた。きっと水が溜まったり、涸れたりとを繰り返して、植物を育てているのだろう。
「水源は?」と、辺りを見渡すと、遥か彼方に霞んだ山々が見える。地図を合わせてみると、コングール山(7719m)やムズターグアタ(7546m)のある、パミール高原である。きっと、伏流水となって、砂漠のこの地を潤しているのだろう。



ホーム

inserted by FC2 system