ハーンの『月と星の宮殿』



ラビハウズ前からバスに乗り、北へ4キロ。郊外にある、「スィトライ・マヒ・ホサ宮殿」に着いたのは、夕刻だった。
ここは、ブハラの最後のハーンである、アリム・ハーンが1911年に建造した、夏の宮殿で、『月と星の宮殿』の名で知られている。
外観は西洋風だが、内装は東洋風というように、東西の様式を混在した建て方である。それは、ロシアで教育を受けた、ハーンの意向という。ロシアと地元の建築家により、東西文化が解け合って出来た、合作の宮殿なのだ。
赤や青、緑、ピンクなど、色彩豊かな色タイルで飾られた、入口の壁面は華やかだ。扉は木製で、重厚な観音開きになっている。
庭石こそないが、木々の茂った庭は、日本庭園の情趣を感じる。放し飼いにされているのだろう、茂みのそこここで、クジャクが餌を啄んでいる。
我々を威嚇しているのか? 樹上のカラスどもが騒がしい。上空から舞い降りて、枝先に止まったカラス。ヒヨドリを一回り大きくしたほどで、日本のカラスよりも小型である。 スリムな体形の翼の真ん中に、一条の白いラインが入っている。
そんな姿は、「さすが宮殿のカラス」と思わせようと、上品にイメージ・チェンジ(?)をしているようで、思わず頬を緩めてしまった。



中庭に面して、テラスのある建物がハーンの宮殿だ。壁面や、長い柱が並ぶ高い天井に施した、華やかな色彩には、目を見張ってしまう。正面には噴水があり、そのために据付けたという発電機は、中央アジアで最初のものだという。
宮殿内に入る。応接間や謁見の間の華美な装飾は、息を呑むほどだ。
敷地内には、300人の女性を住まわせたという、ハーレムがある。白い洋館で、曲線を描いた青い窓枠が、涼しげだ。
ハーレムの前には、広いプールがある。ハーンは、水浴びをする女性たちを、近くのテラスから眺めていたそうだ。気に入った女性にリンゴを投げて、その日の相手を決めていたという。
今使われていないプールは、薄茶色に淀んでいた。その傍には、自己主張をしているかのように、一本の大樹が枝を広げている。青々とした葉が隠れてしまうほどに、白い小さな花々で飾り、その姿をプールに映していた。
「ウズベクのアカシアです」と、ガイド氏が言った。



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