さらば! ティムールの古里よ



ティムールのゆかりの遺構を見終わってから、シャフリサーブスの町へ戻った。
道路が埃っぽいのは、久しく雨が降ってないのだろう。しかし、大樹のプラタナス並木は青々として爽やかだ。道行く人たちは、金歯を入れている女性が多い。女の人ばかり見ていたわけでもないが、男性は目にしなかった。このシャフリサーブスの町でも、若い女性にも金歯の人が多い。高齢になるほど、口の中に金が増えていく。笑うと、奥歯の金も光っている。「かつての日本もそうだったなあ……」と、わたしの子どものころを思い浮かべていた。傍にいたBさんに、そんなことを話すと、彼女は言った。
「そうそう、獅子舞のように口じゅう金歯の人を見かけたわ」
町を出るころ、すでに午後3時を過ぎている。バスはサマルカンドへ向けて、エンジンを高鳴らせていった。
眺める緑の草原は、心を和ませてくれる。どこまでも続く、グリーン・カーペットである。羊の大群が、敷き詰められた緑のキャンバスに、さまざまなモザイク模様を描いている。



ときどき見かける、民家。その近くの草原では、牛と鶏とが一緒になって草をついばんでいる。
珍しく、人影のないそんな原野に、男たちや子どもたちを目にした。彼らは仕事の手を休めて、我々のバスに向かって手を振っている。わたしも応える。
途中、大自然の中のトイレ・タイムを終えてから、バスは再び快走して行く。
ザラフシャン山脈の白壁は、春霞がかかったように靄っている。わたしの瞼もしだいに閉じ始め、シートに体を預けて気持ち良さそうに船を漕ぐ、SさんやOさんの姿もぼんやりと靄ってきた。



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