イランの社交場・チャーイハーネ



酒場のないイランでは、唯一の憩いの場がチャーイハーネだ。直訳すると、「お茶の家」との意の社交場。紅茶を飲んだり、水タバコを吸ったりと、集う場所である。
イスファハーンの街を流れる、ザーヤンデ川に架かる「スィー・ホ・セ橋」を訪ねたのは、午後五時になろうとしているときだった。
アッバース一世時代の一六〇二年に造られた、長さ三〇〇メートルのこの橋の下には、チャーイハーネがある。
木曜と金曜日がイランの休日で、今日は金曜日。チャーイハーネは、若者グループで混み合っていた。見渡すどの席にも女性はいなく、若い男たちばかりだ。
空いている場所が無かったので、相席させてもらう。わたしが座ったグループは、二十五歳前後とおぼしき四人組だ。



どこでもそうだったが、ここでも水タバコを吸っている。わたしが小さなカップに入った紅茶を飲んでいると、若者の一人が水タバコを勧めてきた。
わたしは初めてなので、恐る恐るホースに繋がったパイプを握り、その先を口に当てた。一服、二服と吸うごとに、瓶に溜まった水から泡が立ち上がってくる。
若者たちはわたしの仕草を見つつ、ニヤニヤしている。無味無臭の煙はソフトである。煙草を止めてから二十数年が経つが、これなら咽せることは無い。
みんな英語を話さないようだが、隣の太めの若者は少し英語ができる。ポロリポロリと、英単語が飛び出してきた。彼が一番話好き、いや、お喋りで、ペルシア語でも話しかけてくる。むろんわたしは、チンプンカンプンだ。
その度にわたしは、両手を広げて小首を傾げ、肩をすぼめて欧米人がする仕草をする。
見上げる橋の上は、いつの間にか集まってきたのだろう、黒山の人だかりである。みんな、物珍しげにこちらを眺めている。



旅仲間に呼ばれて、近くの軍服姿のテーブルに移る。ここでも、三人の若者に水タバコを勧められる。まったく英語が通じなかったので、話がすぐに途切れてしまう。
どのテーブルを見ても、小さいティー・カップが一つと水タバコがあるのみで、ツマミなどなかった。アルコール類がなくて物足りなく思うのは、我々日本人だけだろう。彼らは楽しそうに、お喋りをしていた。



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