トルコ絨毯の工場



目覚めると、遠方から歌を唄うような声が聞こえてきた。
耳を澄ますと、朝の祈りを告げる、アザーンの声である。セットした目覚まし時計を見ると、午前5時だ。5時半のモーニング・コール前に起きてしまった。
朝食後、「Vホテル」を出たのは、7時だった。絨毯工場は、バスで30分ほどの距離だ。
ホテルを出てほどなくすると、遠方に雪を頂いた巨大な山が見える。カイセリの南側にあるエルジエス山(3916m)だ。富士山より高い、この雄峰の景観は素晴らしい。



緑に囲まれた庭を通り、工場へ入る。対応に出たのは、日本語の達者な初老の長身氏だった。トルコ絨毯の説明から工場見学を、ジョークを交えて、流暢な日本語で説明してくれた。
興味ある工場見学を、時間をかけて見ることができた。繭から絹糸を紡いでいる、高年の女性。絨毯を織っているのは、若い女性だ。



機織りは力がいる仕事で、力を加えないと固く締まった織り込みができないそうだ。実際にはか細く経験の少ない機織姫ではなく、ベテランの機織女が担当しているという。娘たちに交じって、五十路ほどの女性が織っている姿を見ていると、力をこめて織っていた。
絨毯の種類は、シルクやウールの他に、化学繊維の入ったキリムがある。それに加えて、一色のキリムに刺繍状の模様が施された、ジジムとスマックという種類がある。



シルク絨毯は、トルコではヘレケとカクセリで作られている。かつてのオスマン帝国時代のシルクは草木染めだが、現在は人工染料が主流だという。
絨毯の値段は、材質などさまざまな条件で決まるというが、目安としては織った期間で決まるそうだ。土産用にと売られている絨毯の製作期間は、およそ2〜3ヵ月という。



アンティーク絨毯の基準は百年をめどにして、それ以上のものをいうそうだ。単に古いという経過年数だけではなく、その時代の優れた技術で出来上がっているものが多いという。アンティーク価値は、年代、発色、産地、デザインなどにより、大きさには関係ないようだ。
わたしは壁側の椅子に座り、チャイを飲みながら、そんな話を初老氏から聞いていた。




ホーム

inserted by FC2 system inserted by FC2 system